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公害等調整委員会について

弁護士 永 島 賢 也
2013/02/21

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公調委

国家行政組織法3条2項・4項によれば、我が国には行政組織のために置かれる国の行政機関として公害等調整委員会が設けられています。俗に、公調委(こうちょうい)と呼ばれます。

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典型7公害

公害紛争処理法によれば、公調委は、公害紛争について調停や裁定などを行います。公害とは、環境基本法2条3項の公害と同じ意味です。おおむね、人為的な原因が関与した相当範囲の大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、震動、地盤沈下、悪臭により、人の健康や生活環境に被害が出ていることを指します。典型7公害と言われています。

民事訴訟手続との違い

公調委では、裁判所での民事訴訟手続とは違い、職権で証拠調べや事実調査が行われ、主な手続費用が国庫負担とされ、その手続が効率的であるとされています。
たとえば、近隣で大規模な建築工事がなされ、その騒音や振動に悩まされたとき、とりあえず市役所等に相談しておくと、担当者が現場に行って、その数値を測定してくれることがあります。その後、公調委に騒音や振動の問題として裁定の申立てがなされた場合、公調委の事務局職員等が、その役所に事実調査に出向き、測定結果などを確認してくれる場合があります(公害紛争処理法42条の18参照)。裁判所では職権でこのような調査を始めてくれることはありませんので大きな違いと言えるでしょう。

裁定

公調委は、公害紛争につき裁定による解決を図ることができますが、それには、責任裁定と原因裁定の区別があります。責任裁定とは、まさに損害賠償責任の有無やその範囲について法律的な判断をするものです。原因裁定とは、同じく法律的な判断なのですが、それは加害行為と被害の発生との間に因果関係があるかどうかに絞って判断するものです。

責任裁定

たとえば、責任裁定について述べますと、裁定により、被申請人は申請人に対し金○○円の支払いをせよ、とされた場合、その後30日以内に訴訟が提起されないのであれば、その内容で合意が成立したものとみなされます(同法42条の20「合意擬制」、そのほか提起された訴えが取り下げられたときも同様の効果が発生する)。すなわち、この合意擬制により、合意が成立した場合と同一の法律効果が生ずるということになります。意思表示の合致による合意ではないので要素の錯誤などの規定の適用はないとされています。

原因裁定

他方、原因裁定についてですが、公害紛争の場合、何と言っても一番の論争点は因果関係の有無にあります。通常、全体の紛争の一部分だけ(因果関係だけ)を切り取って判断してもトータルでの解決にはならないのですが、公害の場合、因果関係の有無が決すれば、その後の話し合いによる解決に直結するところがあると言われています。つまり、公害紛争の特殊性に鑑み、因果関係の有無に焦点を絞って裁定をする制度が設けられているのです。
 この原因裁定は、因果関係の有無に集中して効率の良い審理をし、迅速な結論が得られるとされています。原因裁定の結果が出れば、その後、これを踏まえて、直接当事者間で交渉して解決したり、調停を申し立てたり、訴訟を提起するということが想定されています。

関係行政機関等の長への通知

更に、裁定結果は、関係行政機関等の長に対し通知され、直接公害行政に反映させる途が用意されています(同法42条の31)。これは司法裁判手続にはない特徴です。一私人が法的に政策形成に影響を与えることが可能な制度となっています。そして、公調委みずから、関係行政機関等に対し、公害の拡大の防止、同種の公害の新たな発生の防止、被害地の原状回復、被害者救済など広く必要な措置について意見を述べることができます。

受訴裁判所からの原因裁定の嘱託

そして、更に、加えて特異な制度があります。受訴裁判所からの原因裁定の嘱託制度です。これは、裁判所に訴えを提起した後であっても、裁判所が、公害の因果関係の有無について、公調委のリソース(たとえば専門家)を使って調べてもらうことができるということになります(同法42条の32)。

民事訴訟法には鑑定嘱託(民訴法218条)という制度がありますが、これとの違いは、因果関係の有無に関する争点を包括的に嘱託し、しかも対審的手続で裁定がなされるという点です。
公害の因果関係は、概括的に言えば、たとえば、原因物質の特定→その外部への排出→大気等への拡散→被害地への到達→被害の発生という順序(5段階)で進み、各々で因果関係の有無が争われることになります。因果関係の有無を判断するには証拠が必要になります。
民事裁判では、弁論主義に基づき、証拠は、当事者となった原告や被告から提出されることになりますが、公調委では、これらの証拠の収集のため、その手続中において各種の科学的鑑定がなされ、これに基づき事実を認定し行為者に法的責任を負わせる前提となる被害の原因について裁定がなされます。

ここで、注意すべきは、公調委の判断は、個々の論点の自然科学的な鑑定ではなく、また、自然科学的観点から被害原因を明らかにする科学的研究とも異なるということです。公調委では、あくまで法的な責任を負わせるに足りる因果関係の有無についての法的価値判断がなされるということです。なお、原因裁定では、損害賠償の範囲、たとえば、逸失利益がどのくらいかなどについては立ち入って判断しません。

申請人が求めていない事項についての裁定

公調委に原因裁定を申立てた場合、必ずしも申請人が裁定を求めた事項だけに限定されて裁定されるものではありません(公害紛争処理法42条の30第1項)。すなわち、被害の原因を明らかにするため特に必要なときは、申請人が求めていない事項についても裁定することが認められているのです。
「特に必要なとき」とは、職権調査等によって得られた資料により被害原因を明らかにすることが、当該当事者間の紛争を解決することを超えて、公害防止の対策が実施され一般的公共的な利益に寄与すると認められるときと考えられます。
たとえば、甲が、公調委に対し、「乙のA物質の排気が原因だ」として申立てをしたとしても、職権調査等の結果、乙のB物質が原因であると考えられれば、そのとおりの裁定をしてよいということです。そのほか、乙のA物質とB物質の排気が原因であるとか、乙と丙の排出するA物質とB物質の排気が原因である、と裁定することも許されるとされています。

原因裁定嘱託のジレンマ

ただし、これが、受訴裁判所から嘱託された原因裁定の場合、当事者の主張しない事項について判断することは許されません(同法42条の32第4項、同42条の29第2項)。すなわち、同法42条の30の適用が除外されているのです。
確かに、裁判の場合、処分権主義や弁論主義との関係上、当事者の申し立てていない事柄について触れることは問題になります。私人間の権利関係は、私的自治の原則に服し、当事者の自由な処分に委ねられ、弁論主義は、その権利関係の判断のための裁判資料の収集について私的自治の原則が適用されることを根拠としたものと説明されています。こうして、弁論主義を採用することによって、司法権の介入を最小限に制限し、私人間の自主的な紛争解決に近づけることができます。
たとえば、裁判において原告が「乙のA物質の排気が原因だ」と主張していたとしても、嘱託を受けた公調委が、調査の結果「乙のB物質の排気が原因だ」という心証を得たとき、条文に沿って裁判所に対しては「乙のA物質の排気が原因ではない」と回答することになるでしょう。その場合、公調委が関係行政機関の長に対して通知するのであれば、同様に「乙のA物質の排気が原因ではない」と通知するか、あえて通知はしないことになるかもしれません。
しかしながら、公調委としては「乙のB物質の排気が原因である」と通知しなければ、公害の抑制防止対策としては役立たないのではないかと思われます。公調委は問題となった公害が乙の排出するB物質が原因であると知っていながら、それを誰にも伝えられないという状況を正当化するのに、これはあくまで甲乙間の私人間の紛争にとどまるものであるからと説明することはできるでしょうか。

公害の公共性・社会性

上述のとおり、公害とは環境基本法に規定され、事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる・・・ものであるとされています。この相当範囲にわたるという要件は、公害が一般の不法行為の事案ではなく、公害として処理する相当なものを取りだしているのですから、単なる相隣関係などの問題にとどまらず、ある程度広がりを持つ社会性・公共性のあるものを視野に入れていると言えるはずです。
そうであるならば、公害という取扱の対象自体に純粋な私人間の紛争を超える契機が含まれているのであって、それを取り扱う機関としてはその社会性公共性に相応する対応が求められるものと言えるでしょう。
また、この性質を直視するのであれば公害が国境に線引きされる合理的理由もないことになるでしょう。たとえば、わが国には他国を水源とする川はありませんが、大気汚染などはあり得るでしょう。 

                                   以 上

                                

         

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